寝たきり犬の介護のポイントは? 犬も飼い主さんも幸せに過ごすために

2018/12/13

vol.019

獣医療やフードの進歩などにより、犬の寿命が延びています。なかには高齢になって寝たきりになり、飼い主さんの介護が必要になる犬もいます。
大切な家族である犬が寝たきりになったときは、少しでも快適に過ごさせたいものです。そして飼い主さんがなるべく大変な思いをせずに介護を乗り越えるにはどうしたらいのか、100名の獣医師に意見を伺いました。

寝たきりの犬にやってあげるべきこととは?

まずは寝たきりになってしまった犬の介護でやってあげるべきことについて伺いました。

寝たきりの犬にやってあげるべきことでは、「床ずれを起こさないように注意する」が最も多くの同意をいただきました。
(床ずれ予防に良い方法については、次の質問でもご意見を多くいただいています)

続いて排泄物で汚れないようにお尻周辺をカットする排泄を手伝ってあげる、そして体のマッサージが多くの同意をいただいています。

エサをふやかすことや、外に連れ出すことは3割ほどの獣医師が「どちらとも言えない」とされていることや、「どちらかというと同意されない」という回答もあります。

エサをふやかすことで食欲が増し、食べやすいようでしたらふやかして与えるといいですね。

また、おむつをつけることや歯みがきについては、4割ほどの獣医師が「どちらとも言えない」と回答しています。犬の状況や飼い主さんの生活スタイルなどでも、対応が異なることが考えられます。

マッサージもしてあげましょう

体のマッサージをしてあげることは「同意する」「どちらかというと同意する」合わせて94%となっています。血行が良くなり、刺激にもなるのでマッサージは定期的にやってあげましょう。

マッサージはスキンシップとしても大切です。声をかけながら爪のチェックもしてあげましょう。犬も触れられることで安心できます。

滋賀県
朝日を浴びさす、スキンシップの時間を増やす、爪が長くなっていないかチェックする。
筋肉量をできるだけ保つようにマッサージ、ストレッチ等してあげる。
東京都
体位交換をまめに行い、四肢のマッサージをして体を動かしてあげること。
可能ならばそばにいてあげる事で犬が安心できる環境を作る。
神奈川県
臨床経験:26-30年
得意な診療科:泌尿器科,放射線科,総合診療
声かけや、身体に触れてあげること。

関節を動かすことも寝たきりの犬にとって大切なことです。

埼玉県
臨床経験:36-40年
得意な診療科:一般内科,皮膚科,泌尿器科
関節を動かす。
京都府
筋肉、関節の拘縮を防ぐための受動運動。

排泄で困らないために

寝たきりになると、排泄物でどうしてもお尻の周りが汚れやすくなります。お尻周辺の毛をカットすることについて、大変多くの獣医師が同意されています。毛に排泄物がつかないように、カットしてあげましょう。

また寝たきりになると排泄がうまくできないことがあります。うまくできないようでしたら、手助けをしてあげましょう。

おむつをつけることについては同意されている獣医師と、どちらとも言えないというご意見の獣医師が、同じくらいいらっしゃいます。
犬の排泄の状態や、飼い主さんが出かけるときにだけつけるなど、状況によってもおむつをつけるかどうか変わってくるかもしれません。おむつについても、獣医師に犬の状況を診察してもらって相談するといいですね。

北海道
臨床経験:11-15年
得意な診療科:一般内科,消化器科,循環器科
排泄の問題は早めに獣医に相談する。

上記のアンケート以外に、獣医師の皆さんから貴重なご意見をいただきました。

やせないようにすることも大切

寝たきり予防には、やせすぎないようにすることも重要です。

京都府
クッションとなる脂肪を適度に保つため栄養不良にならないようにする。
福岡県
臨床経験:16-20年
得意な診療科:一般内科
やせすぎない。
滋賀県
筋肉量維持のための工夫をする。

犬に刺激を与えましょう

寝たきりになってしまったとしても、声掛けなどで刺激を与えることは認知症予防のためにも大切です。犬に声をかける、撫でるというご意見を多くいただいています。

山口県
声をかけたり、刺激を与えたりする。
神奈川県
臨床経験:6-10年
得意な診療科:一般内科,放射線科,神経科
認知症に気をつける為刺激を与えてください。
静岡県
なるべく声をかけてあげる。
福岡県
臨床経験:16-20年
得意な診療科:一般内科
朝、起こす。

忙しいときや留守中はラジオをかけるのもいいですね。

北海道
臨床経験:0-5年
得意な診療科:皮膚科,歯科・口腔外科,一般内科
ラジオをかけたり声掛けをしたりして刺激を与えてあげる。

環境に気を配ってあげることが大切

寝たきりになると、犬も不安感が強くなるようです。急な環境の変化は避けるようにした方がよいでしょう。

兵庫県
臨床経験:0-5年
得意な診療科:総合診療,一般内科,腫瘍科
不安感も強くなっているので、なるべく環境を変えない。

温度管理にも気配りした方がよさそうです。また日光浴も忘れないようにしましょう。
外が好きな子は連れ出してあげると気分転換になりそうです。

東京都
臨床経験:16-20年
得意な診療科:一般内科,消化器科,循環器科
温度管理に気を付けること。
大阪府
臨床経験:16-20年
得意な診療科:一般内科,皮膚科,循環器科
日光浴。
兵庫県
臨床経験:16-20年
得意な診療科:一般内科,皮膚科,エキゾチック
元々外が好きだった子であれば、やはり少しでも外に連れ出してあげることはいいことだと
思います。

床ずれ予防によい方法は?

最も多くの獣医師が気を付けるべきと回答している寝たきりの犬の床ずれについて、有効な予防手段を伺いました。

床ずれ防止にはまず床ずれ防止ベッドやマットを用意しましょう。99%の獣医師が同意されています。床ずれ防止ベッドやマットについても多くのご意見をいただいています。

大阪府
床材を床ずれをおこさないようなものにする。
埼玉県
臨床経験:0-5年
泌尿器科,一般内科,総合診療
床ずれ防止のマットレスの提案。

素材についてもアドバイスをいただきました。

静岡県
マイクロファイバーやムートンなどのように摩擦の少ない素材の敷物。
大阪府
エアマットなど体圧を分散するものを使用する。
愛知県
臨床経験:6-10年
得意な診療科:眼科,総合診療,一般内科
ビニール袋に水を入れたものを何個もビニールプールや収納プラスチックケースに入れて、
その上にタオルを何枚か敷き、さらにペットシーツを何枚も敷き、ウォーターベットを作る。
東京都
臨床経験:16-20年
得意な診療科:総合診療,歯科・口腔外科,一般内科
点でなく面で支えられるように低反発のマットの上にいてもらう。
熊本県
ウォーターベッドを利用するのも良い。骨格の図を見せながら、褥瘡(じょくそう)の
できやすい場所を教えてあげる。

ペット専用にこだわらなくても、床ずれが予防できることもあるようです。

東京都
人のヨガマットの活用。

どのようなものを使えばいいかわからないときは、動物病院で現物を見せて相談すると安心です。

東京都
ペットの介護用品を活用する。動物病院に相談されるときは市販の場合は商品を持ってきて
いただけると助かる。

次に大切なことは寝返りを打たせることです。2-3時間おきに寝返りを打たせることについては92%の獣医師が同意されています。
ただし犬の体の状態によっては、寝返りが難しいこともあるかもしれません。また仕事をしている方は、2-3時間おきに寝返りを打たせることが難しい場合もあります。かかりつけの動物病院の獣医師に相談することをおすすめします。

神奈川県
臨床経験:6-10年
得意な診療科:消化器科,歯科・口腔外科,内分泌・代謝疾患
寝返りをさせる、背骨が曲がらないように片方に偏った寝方をさせない。
兵庫県
臨床経験:0-5年
得意な診療科:総合診療
声をかけてあげること。こまめな体位変換。敷布団に注意する。

ドーナツクッションの使用についても多くの獣医師が同意されている一方、「同意しない」「どちらかというと同意しない」獣医師もいらっしゃいます。使用する前に現物を見せてかかりつけの獣医師に相談するといいですね。

寝たきりの犬に食事やお水を与える方法

自分で食べさせることも大切

犬が自分で食べられるなら、体を支えて自分で飲食させることについて97%の獣医師が同意されています。なるべく自分で食べさせるようにしましょう。

自分で食べられるときは、食器の位置を高くすると食べやすくなります。台を置くなどして工夫してあげるといいですね。

静岡県
食器を高くして食べやすくする。

食べやすいフードにすることも大切です。ゼリーや寒天の利用も検討してみてください。

千葉県
臨床経験:11-15年
得意な診療科:総合診療,一般内科
強制給餌でないならゆっくりと少量ずつ。食べられるなら自分で食べられるように仕向ける。また飲み込みやすいようにある程度の塊の方がよい場合もある。
ゼリーや寒天でかためて与えるのがよい場合も、その方が誤嚥せず水分がとれたりもする。
難しくなった場合に獣医師と相談、チューブが必要かどうか、そこまでする必要があるか。
埼玉県
臨床経験:0-5年
得意な診療科:泌尿器科,一般内科,総合診療
リキッド系のフード。

道具を上手に利用

スプーンやチューブ、スポイト、介護用フードボールなどを上手に利用し犬も食べやすく、飼い主さんも与えやすい方法を選びます。

熊本県
介護用の水やフードボールの活用。
栃木県
臨床経験:6-10年
得意な診療科:一般内科,循環器科,眼科
スポイトなどで、少しずつ与える。

誤嚥に要注意!

寝たきりの犬に飲食させるとき注意したいことが、誤嚥(ごえん)予防です。誤嚥させた場合は、動物病院を受診するか、連絡して指示を仰ぎましょう。

滋賀県
臨床経験:11-15年
得意な診療科:泌尿器科,放射線科,総合診療
誤嚥には細心の注意を払う。
大阪府
臨床経験:16-20年
得意な診療科:一般内科,皮膚科,循環器科
とにかく誤嚥の注意。
大阪府
臨床経験:16-20年
得意な診療科:総合診療,栄養学,一般内科
舌の動きに合わせないと誤嚥する。とろみがあった方がいい場合もある。

誤嚥予防は少しずつ食べさせること、そしてなるべく体を起こして食べさせることがポイントです。飲み込んだことを確認しながら食べさせてあげましょう。

栃木県
臨床経験:0-5年
得意な診療科:循環器科,総合診療,皮膚科
頭を上げて、少しずつ与える。
福岡県
臨床経験:16-20年
得意な診療科:一般内科
飲み込んだのを確認しても、間を少し置き、ゆっくり与える。
千葉県
臨床経験:41-45年
得意な診療科:一般内科,皮膚科,総合診療
体を真横にしたり、頭が下がった状態での飲食をしたりすることは避ける。
岐阜県
臨床経験:0-5年
得意な診療科:一般内科,内分泌・代謝疾患,皮膚科
誤嚥させないよう、横になったまま行わない。
東京都
臨床経験:11-15年
得意な診療科:総合診療,救急救命科,麻酔科
嫌がっていないからといって誤嚥していないとは言えないので注意深くゆっくりと
やってもらうのが大切。

食べさせるときは無理をしないこと、そして焦らないことです。

岡山県
臨床経験:6-10年
得意な診療科:腫瘍科,血液学,眼科
無理に入れすぎない。
愛知県
臨床経験:36-40年
得意な診療科:一般内科,消化器科,泌尿器科
口に無理に押し込めない。
東京都
臨床経験:16-20年
得意な診療科:一般内科消化器科,循環器科
焦らずゆっくりと実施する。

体重の減少に注意しましょう。カロリー不足では体重が減ってしまいます。

愛知県
臨床経験:6-10年
得意な診療科:眼科,総合診療,一般内科
カロリーが足りない場合、体重が減るので注意する。

寝たきり犬の介護のポイントは「無理をしない」「抱え込まない」

寝たきりの犬を介護するのは、飼い主さんにとって大変な負担になることもあります。獣医師の皆さんに、介護を乗り越えるために飼い主さんにお伝えしたいことを伺いました。

無理をしないこと

愛犬のためなら、と完璧を目指しがちですが無理をしない範囲で介護をしていきましょう。

岡山県
臨床経験:6-10年
得意な診療科:腫瘍科,血液学,眼科
100点を目指さないこと。
千葉県
臨床経験:6-10年
得意な診療科:歯科・口腔外科,総合診療,循環器科
無理をしないこと。介護グッズ、薬の助けをかりること。
大阪府
臨床経験:0-5年
得意な診療科:歯科・口腔外科,一般内科
定期的に病院に預けるなど飼い主さんが休める時間を作ってもらう。

1人で抱え込まないで動物病院や周囲に相談をしましょう

1人で抱え込まないで、動物病院や専門家に相談していくことも介護を乗り切るコツです。

新潟県
臨床経験:31-35年
得意な診療科:一般内科,皮膚科,歯科・口腔外科
無理をせず一人で抱えこまないで何でも相談してください。
兵庫県
臨床経験:16-20年
得意な診療科:一般内科,皮膚科,エキゾチック
少しでも辛いことや疑問があれば、動物病院の獣医師や看護師、ドッグトレーナーなどの
専門家に相談して、一人もしくは家族だけで抱え込まないようにしてください。
三重県
臨床経験:26-30年
得意な診療科:皮膚科,総合診療,生殖器科
こまめに病院に相談してきて。家族みんなで介護し、一人に任せない。
介護に疲れてきたら、頼ってきて。ディサービスします。
東京都
臨床経験:16-20年
得意な診療科:一般内科,消化器科,循環器科
病院と上手く連携するのが良いと思います。
埼玉県
夜鳴きなどでストレスを感じたり、不安なことがあったりしたら、気軽に動物病院に
相談していただければと思います。
栃木県
臨床経験:6-10年
得意な診療科:一般内科,循環器科,眼科
あまり無理をしないで且つ獣医師にも相談していく。
東京都
臨床経験:11-15年
得意な診療科:総合診療,眼科,一般内科
飼い主さんにお世話してもらっているワンコは幸せものです。
飼い主さんは、ワンコに幸せをあげているんです。
その状況を楽しんで、その時間を大切に。もし疲れたら、誰かを頼って欲しい。
動物病院は頼りになるはずです。 食べさせる事に執着しすぎない。
ゆっくりと『穏やかな最後の日』を迎えるために、少しずつ栄養をセーブしていくのが
生き物です。 食べなくても心配しないで。 (ただし獣医師の診断が出ているときに限る)

そして何より飼い主さんの犬への愛、犬からの飼い主さんへの愛があることを忘れないことも大切です。

栃木県
臨床経験:0-5年
得意な診療科:循環器科,総合診療,皮膚科
高齢の動物の介護は大変ですが、飼い主様の気持ちは動物にも届いていると思います。
北海道
臨床経験:0-5年
得意な診療科:皮膚科,歯科・口腔外科,一般内科
この状態が永遠に続くわけではないということ。これまで元気な動物にどれだけのものを
もらってきたか。それを返すのだということ。

まとめ

寝たきりの犬の介護で大切なことは、まず床ずれを予防することです。そのためにも、犬は床ずれ予防の敷物に寝かせてあげましょう。さらに寝返りを打たせ、関節を動かすことやマッサージをすることも効果的です。認知症予防のためにも、刺激を与え声をかけてあげましょう。

飲食のときは上体を起こしてあげることが、誤嚥予防のためにも重要です。必要に応じて、チューブやシリンジをうまく使って焦らずに食べさせてください。

寝たきりの犬を介護することは、どうしても無理をしがちです。上手に乗り越えるには、1人で抱え込まず、動物病院や周囲に相談することがポイントです。